[其の三]相撲取り時代の思い出

相撲ファンの方ならご存じだと思いますが、大相撲では、場所ごとに番付けが発表されます。 横綱・大関・関脇・小結・前頭・十両・幕下・三段目・序二段・序ノ口。 私は1988年3月場所で十両に昇進。この場所で8勝7敗と勝ち越し、しばらく十両に定着しました。 その後は、怪我もあり、何度か幕下に陥落しましたが、1994年11月場所では、自己最高位の東十両4枚目まで番付を上げることができました。 幕内に上がりたいと懸命に精進しましたが、結局上がれませんでした。十両でい続けることも本当に難しいことです。自慢できる話ではありませんが、私は十両と幕下を6回往復しているんです。これはタイ記録です(笑い)。普通は2・3回落ちると辞めていく。どうしても気持ちが萎えるんですね。一回十両に上がったからいいやと思ってしまうんです。 十両と幕下。幕下の次が十両ですが、その差は大きくて歴然とした違いがあります。 まず、十両以上はお給料が毎月でますが、幕下は2ヵ月に1回幕下手当だけ。十両は付人が付きますが、幕下はすべて自分でしなくてはいけない上に、十両以上の力士のお世話もしなくてはいけない。十両はお風呂も食事も先ですが、幕下は十両以上の力士の給仕をしてからです。こんなことがありました。 後輩力士が十両に上がった時に、入れ替わりで私が幕下に落ちました。 大嶽部屋 私が十両の時、その後輩の力士は給仕をしてくれたり私の世話をいろいろしてくれていました。もちろん食事もお風呂も私が先です。でも、彼が十両に上がり、私が幕下という番付け発表があった翌日から、立場は逆転。私が彼の給仕をするわけです。 これはつらい。本当につらい。どんだけつらいか…。私はその思いを味わっているんです。 その頃の私を支えていたもの…。それは、もう1回上がってやろうという気持ち、負けない心だけです。だからこそ部屋の力士たちに言うんです。一生懸命に稽古をして、苦しい思いや辛い思いもして。少しでも上を目指せ。上に上がって、応援して下さる方の声援や取り巻く環境も含めて、 いい思いを経験しろと。上がることがあれば、落ちるときもあるだろうが、腐ってはだめだ。その時は、あの場所へもう一度行くんだ、たどり着くんだという強い気持ちを持てと。 力はそう簡単には落ちるものではありません。年だからいいやとか、一度上に上がったからもういいやとか。そう思ったら、その時点でだめになるんです。自分に負けてしまうんです。 相撲は相手との勝負ですが、自分自身との闘いでもあるのです。続く・・・